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を出すと、それをもとに議会で追求されたり、マスコミに叩かれるため、そのような事態を避けようとする心理が働くからである。
しかし、阪神・淡路大震災で被災地方公共団体が得た教訓は、全国(あるいは世界)の地方公共団体が共有するべきものである。それがこのような理由から日の目を見ないことがあるならば、日本や世界の防災行政にとっては極めて大きな損失といわなければならない。
このような意味からも、地方公共団体の議員やマスコミ関係者は、問題点・教訓を赤裸々に記述した記録の刊行を督励こそすれ、それを材料にした揚足取りは決してしないで欲しいと切に願わずにはいられない。
(3)過去の災害の教訓および全国的な実践のノウハウを蓄積し提供する
全国の地域防災計画の内容を概観すると、多くの市町村の地域防災計画には、過去の災害の教訓や全国的な実践のノウハウが十分には盛り込まれていないことに気づかれると思う。また、市町村ほどではないが、都道府県の地域防災計画の中にもそのような傾向の見られるものがある。
このことの具体的説明は省略するが、代わりに以下のア〜シの記述を読んで欲しい。
ア.地震当時、市職員は2600余。家屋の焼失・倒壊・浸水等で職員の8割は、大なり小なり被災した。
イ.応急対策に従事する職員もまた、彼ら自身が被災者であるため、わが家の安否を気づかった。災害時体制はふだんから組織され、統制担当表もできている。ところが、今回は全く想像を絶する大災害で、給水、給食といわれても、連絡はとれず、車は動かない。したがって職員の能力にしても、地震直後は平常の2割しか発揮できなかった。
ウ.給水車がないので、トラックにドラム缶と上乗り人夫を乗せることにした。上乗り人夫には、市と県から各100人ずつ出すことにしたが、市は応急対策活動等に追われる中で、当初はほとんど要員を確保できなかった。
エ.通信網の寸断から、県が被害の全貌を把握するまでに意外なほどの時間を要したが、実態把握の遅れということについては、直接住民と直結してその被害状況調査にあたる市町村の側にも問題があった。被害の大きかった○市では、長期間を要してもなお被害の実態が把握できないという状況であった。
オ.市内幹線道路は、地震によって至る所で亀裂・陥没・浸水して甚大な被害を被り、また口□川下流に架けた3本の橋のうち、2本は落橋または落橋寸前の状態となり、残る1本も大損害を受けて車の交通は不能となった。さらに、市内の交通信号機は破損、停電のため機能を失い、市内交通は甚だしい混乱状態となった。このような状況にありながら、地震当日の夕刻ころから罹災者や家族の連絡、家財道具の搬出、救援活動などが活発となり、さらに翌日に入ってからは県内外から震災見舞い、救援物資の輸送などの用務で○○市内に乗り入れる車両数が急激に多くなったため○○市周辺の交通事情は極度に混乱の度を増していった。
カ.収容人員が4,600人に達したS小学校では、食料・飲料水の支給、その他避難所の管理・運営に種々の困難を伴ったため、約50人に1人の割合で班長を置き、収容者の世話をすることを決めた。
キ.自宅で炊飯出来ない人達が食事時になると避難所へおしかけた。このような状況があちこちの避難所で見られたため、避難所収容人員の把握が的確に行えず、炊き出しの円滑さを阻害した一因となった。
ク.落橋、至る所での道路の隆起・陥没、多数の応援車両の往来等のため、食品輸送

 

 

 

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